Why ひとびと ?

石垣島に魅せられて

Why ひとびと ? パイナップル 沖縄県 沖縄県石垣島

2023.06.13

PROFILE

本村 修

脳家

長年海外にて会社経営に従事し、2009年に帰国。日本各地の農家へのボランティアに出向き、石垣島に行き着く。その自然環境と農家の営みに惹かれ、就農。無農薬・減農薬のパイナップル(島パイン)の生産を始めて5年目、ようやく出荷に漕ぎ着ける。現在はパイナップルをはじめ、希少な島の作物を育てる。若手農家の育成にも熱を注ぐ。

本村修さんのこと

「若い時からアメリカを拠点に会社経営をしてきました。海外を回って世界をいろいろと経験してきましたが、農業を始めてみたら大地を感じる面白さに感化されました。自然環境を肌で知ることができ、自然がどれだけ偉大なのかを思い知らされます」。

本村さんは石垣島で農園「脳」を営んで13年。力を入れているのは、無農薬・減農薬のパイナップルです。その芳醇なおいしさは、Why Juice?にも届けられています。

 

「信念があるのでね」

本村さんがここに根を下ろすまでには、多大な努力の積み重ねがありました。「僕は内地(本土)の人間です。多くの地域でもそうであるように、ここも保守的な人が多くて、ここで農業をしたいと言ってもなかなか相手にしてもらえませんでした。ましてや土地を買い、就農するなんて驚かれましたよ」

はじめは土地を借りて、がむしゃらに野菜を育てていたという本村さん。地元の農家のもとへ通い、農業を学びながら試行錯誤する日々が続きました。2、3年ほど続けていると、近隣から土地を買わないかと話を持ちかけられたと言います。「汗水流して農業を学んでいく様子を見て、少しずつ受け入れていただいた結果なのだと思います。諦めないで努力し続ける、その姿勢を見せ続ける。経営者としてやってきたことが、ここで生かされたようです」

「この地域に順応するだけでとても大変でした。地元の人間じゃないのに少しずつ協力していただけるようになって、本当にありがたく思っています。今では、僕のことを知ってくださっている方が増えているようで、面識のない方にも『がんばってるね』なんて声をかけていただくこともあって、嬉しいですね」

当初はトマト栽培に取り組んでいたものの、台風で全滅してしまったりとなかなか生産が軌道に乗りませんでした。地元の農家との交流を重ねるなかで、パイナップルであれば台風の時期を避けられ、雨風のダメージにも強いということがわかり、パイナップルの栽培をスタートします。

妊婦である友人からのリクエストを受けて、苦労を承知で無農薬でのパイナップル栽培から取り組み始めた本村さん。5年間試行錯誤を積み重ね、ようやく出荷に漕ぎ着きました。いまでは本村さんのパイナップルを求める声が増え、そこへ応えていくために減農薬でも生産を行っています。「できるだけ安心して食べていただきたいので、農薬を散布する回数や量は極力減らすように努力しています」


そうして少しずつ経営が安定していくなか、ある日、大事故に見舞われます。トラクターに足を挟まれ、大怪我を負ってしまったのです。4年経ったいまでも、まだ松葉杖なしには歩くことができません。「手術を4、5回しました。農作業が行き届かなくなり、畑は最悪の状態に。ですが、意外とまわりの人たちが手伝ってくれて、持ち直すことができました。前職の後輩たちや、これまで講演させていただいた大学の学生たち、そのまわりの就農に関心のある若い人たちが来てくれて助かりましたね。趣味のマラソンもできなくなって、元の足には戻らないと診断されてがっかりしましたが、みんなのおかげで立ち直れました。農家をやめようとは思いませんでしたね。続けようという信念があるのでね」

本村さんのモチベーションは何なのか伺ってみると、「自分でもわからないんだけどね……ただただ、好きなんだろうね。パイナップルの収穫は重くて重労働だけど、汗を流したり」との答え。若者が農業を学びにくることも、励みのひとつになっているようです。

 

石垣島のこと、パイナップルのこと

本村さんが育てるパイナップルの旬は5月から6月。収穫できるようになるまでに約2年半の時を要します。「パイナップルは果実の脇に生える脇芽を定植して育てることでその数を増やすのですが、この脇芽の苗を8月末に採り、9月末に植え、肥料を数ヶ月おきに与えていきます。そして地面から40センチほどに伸びた茎の先に実をつけていきます」。この間、無農薬や減農薬で育てている本村さんの畑では、草取りなどの作業に追われると言います。

実が熟し始めたら、緑色の早い段階で収穫します。出荷しお客さんの元に届くまで3日ほどかかるため、到着するころにちょうど熟す頃合いを見計らうのだそうです。「本当は常温で熟したものを食べるのが一番美味しいんですけどね。送るときは冷蔵してしまうので、少々水っぽくなってしまいます。石垣島で常温状態で熟したものが一番おいしいと思いますね」

おいしいパイナップルの見分け方についても教えてもらいました。「皮を見て、オレンジ色の部分が3分の2になっているかどうかが、食べごろを見極めるひとつの目安。純粋に肩が綺麗で、重量感があるものはおいしい傾向にありますね」

 

おいしいパイナップルを知ってほしい

国内に流通するパイナップルの大部分はフィリピンなどからの輸入が占めており、石垣島産のものはなかなかスーパーに並びません。本村さんは、おいしい国産のパイナップルをもっと消費者に知ってほしいと話します。「東京に並ぶパイナップルは僕から見ると質が良いとは言えません。熟し過ぎだし、傷みがひどい。美味しくないという話も聞きます。カットされたパイナップルを買われて、パイナップルはこんなもん、と思われてしまうのが心苦しい。もっと美味しいものだと伝えたいです。どうしたら知ってもらえたり、販路がひらけていくか考えているところです」

「石垣島のパイナップル農家の先輩はみんな30年や50年選手。島にパイナップルの缶詰工場があって、戦時中から作られていたと聞いています」。沖縄県は日本一のパイナップルの産地ですが、県内でも、土壌と気候の条件が合う本島北部と石垣島でしか作られていません。「パイナップルは気温15度を下回るとうまく育ちません。赤土が適しているそうで、それらの条件を満たす場所は日本国内でも非常に限られています。石垣島でも、山側の畑でなければ栽培できません」。石垣島でパイナップルを育てる85軒の農家の中で、本村さんは最も若手。10年後には担い手がいなくなってしまうと危惧しています。

 

若手が就農しやすい状況をつくる

いまの農業の課題について聞いてみました。「とにかく一番の問題は人材でしょう。これから高齢化で農家はどんどん減ってしまう。僕たちが逝っても、土地は残るので、次の代に伝えたい。続けなければ意味がないんです。若い人に就農してもらうためには、いま僕が感じているような楽しさを知ってもらうことが必要だと思うので、ここに若い人たちを呼ぶようにしています」

前職のつながりを中心に農園へ若者を呼んでは農業の面白さを伝えているという本村さん。農家の働き方についてもアイディアをめぐらせています。「できるだけ都会の子たちにもやってもらいたい。都内に住むのも良いが、今は二刀流(二拠点居住)もできますから、柔軟に考えてみてほしいですね。それから、ひとりでやるというのも大変ですから、4、5人のグループをつくって、交代でやってもいい。そうして風通しを良くしていけたら。東京の仕事をやりながら、土に触ったり、自然農に携わるのが、農業の新しい進め方のひとつだと思います。収入面で継続が難しい面もありますから、ここは国や自治体にも支援していただきたいところですね。あとは、土地を買いやすくすること。明治時代から変わっていない農地法を、もっと簡単なものに変えていく。そうして若い人が参入しやすい状況を作らないと」

本村さん自身も、新しい農家のスタイルに挑戦する準備をしています。「“移動農業”と例えて呼んでいるのですが、全国のあらゆる場所に農地を持って、農業をしたい人を募り、各地交代で回って畑をやる。いろいろなものが作れるし、それぞれのワークスタイルに合わせて働くことができます。ひとつの土地にずっといるのは大変ですから、新しい風を吹かせたい。これを繋げられる会社をつくろうと、今準備しているところです」

 

海のサンゴを守りたい

「石垣島では農家の除草剤の使用が問題になっています。除草剤が海へ流れ込み、サンゴが死んでしまっているためです。島ではその様子を目の当たりにしていますが、農家は除草剤を使わなければ草が枯れず、農作業がものすごく大変になってしまうのです。何か新しい方法があれば良いのですが……」

子どもに安全なものを食べさせたいという思いから無農薬栽培を始めた本村さん。農業を営むなかで環境問題への問題意識が高まっているそうです。農家の営み、食料確保と両立しながら、環境に負担をかけない農業をいかに展開していくか、これからも考えていきたいと話してくれました。

 

おわりに

本村さんはインタビューを通じて、おいしいパイナップルが広く知られていないという問題意識、そして農業の担い手が足りない現状や環境問題に対して、思いと考えを示してくださいました。これを機に私たちも、遠い島の出来事に目を向けていきたいと思います。もちろん、ジュースをはじめ、私たちにできる発信方法で石垣島のパイナップルについても伝えていきます。


そして来年には、怪我やコロナ禍で中断していた東京でのイベント出店を再開したいと話します。石垣島からの出店は簡単なことではありません。それでも出向きたいという意志は、顧客の顔を直接見てコミュニケーションを取りたいという本村さんの思いからきているようです。Why マーケット?にもご出店される日が来たら、皆さまもぜひ、会場へ本村さんとおいしいパイナップルに出会いにいらしてください。

 

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